サイトメニュー
CLOSE

伝統の未来

和紙 和紙

「和紙」は、明治以降に欧米から輸入された、木材パルプを原料に多量の人工物を加えた新種の紙=洋紙と区別するために生まれた、「新しい」言葉であり概念だ。それゆえに定義も曖昧なままだったが、日本政府は和食に続いて「日本の手漉和紙技術」をユネスコの無形文化遺産に提案、2014年に《原料に「楮」のみを用いる等、伝統的な製法による手漉和紙の製作技術》が登録された。これをもっとも狭義の「手漉和紙」とし、一定以下の速度による機械漉きや、原料に楮や三椏、雁皮以外の木材パルプを混ぜるものなどまで、現在では広く「和紙」と呼ばれている。

奈良時代に律令制度を整えていく過程で、中国から学んだ製紙法をもとに、戸籍や租税を記録する大量の用紙を作るようになった日本において、和紙は長い間、社会と文化を支えるインフラであり続けて来た。その最盛期は実は明治時代にあり、1901年(明治34年)、紙の需要の急増に応じて、和紙の生産戸数は約7万戸、製紙に従事する者は約20万人を数えた。ところが、間もなく工場での洋紙の生産体制が整ったこと、また昭和初期の農村の大凶作、第二次世界大戦中の統制経済と追い打ちをかけられたことで、生産量は減少の一途を辿る。全国手漉き和紙連合会の調査によれば、2009年の手漉和紙の生産戸数は295戸と、100年前の約230分の1にまで減少。この10年ほどの手漉和紙の出荷額を見ても、2002年には約30億円あったものが、2012年には20億円を切るまでに減っている(経済産業省工業統計調査品目編)。

原材料となる国産楮の供給力の低下はさらに厳しく、手漉和紙生産戸数が、1976年~2004年比ではほぼ半減しているのに対し、楮の生産量を1975年~2004年比で見ると、収穫量で8%、栽培面積では11%にまで縮小。現在では、国産に比べて10分の1以下の価格で供給可能な、中国やフィリピン、タイなど外国産原材料が、和紙原料の約70%を占めるまでに至っている(日本特用林産振興会)。

戦後の生活様式・社会構造の変化に起因する生産者・加工者の高齢化と後継者不足という、伝統工芸のあらゆる領域に見られる構造的な問題は、ことに和紙において危機的な水準に至っている。ここに何らかの具体的な解決策を示せるかどうかが、「伝統の未来」の試金石となるはずだ。

  • 続きを読む
  • 折りたたむ
和紙の森めぐり|
監修:佐藤晃一

日本人の神経の細やかさ。その理由は様々あるでしょうが、明かり障子など、和紙との生活も案外大きな理由のひとつといえるかもしれません。それは、和紙そのものの肌理のなせる技であり、それを作り育ててきた日本人の心の肌理の表われでもあります。ここでは各地から和紙約100種を集め、肌で感じる和紙の森をご堪能いただきます。

照明器具|AKARI
イサムノグチ

岐阜市からの依頼で、戦後低迷していた岐阜提灯を活性させるために、イサムノグチが設計した「AKARI」は、和紙と竹ひごの素材の温かみを見事にいかしつつ、イサムノグチの彫刻的才能がふんだんに発揮された照明器具の傑作です。日本の空間のみならず、紙の照明器具の定番として世界中で愛されています。和紙の伝統や日本の美意識を、グローバルな文脈へとつないでいく上で、偉大な功績を残している製品で、今日においてもますます揺るぎない存在感を示しています。イサムノグチが生涯に制作したAKARIは200種類以上。

  • 作品一覧を見る
  • 折りたたむ
紙の食器|WASARA
緒方慎一郎

パルプをモールド成型してかたちを作る技法が用いられた、紙の食器です。日本料理を盛り付け、箸で食べる環境を、パーティやケータリングなど多様な用途に拡張し、器から食の気品を演出している点で秀逸なデザインです。器を手にとって食べる所作を前提にしており、持った時の触り心地、軽さ、口当たりなど、細やかな点にも配慮が行き届いています。紙の器というと、使い捨てできるカジュアルなものが想起されがちですが、造形的な完成度も高く、使うたびに日本の美を意識できます。

  • 作品一覧を見る
  • 折りたたむ
ぽち袋/封筒/便箋
かみ添

越前、美濃、石州、京都などの和紙に、雲母染めをほどこし、胡粉を刷って仕上げたぽち袋に封筒と便箋。お年玉やちょっとした心づけにお金を差し出す際に、さりげなくぽち袋に入れて手渡す習慣には、日本人らしい繊細な気遣いが潜んでいます。

雲母を和紙に刷ることで、格調高い風格が紙に備わります。白は刷られた胡粉で、的確な手作業の技術を感じさせる製品です。和紙の白さをそのままに、雲母と胡粉という、異なる「白」を同居させていくという美意識に、洗練された日本を感じさせます。

  • 作品一覧を見る
  • 折りたたむ

日本の主な和紙の産地

和紙の三大原材料について

和紙の原材料は、古くから三椏、楮、雁皮の3種類の樹木繊維である。
樹皮の下にある柔らかな部分を繊維状にして用いるが、軽くて強靭な和紙の特徴はこの繊維によるものである。

三椏|
みつまた

三椏は、中国が原産のジンチョウゲ科の落葉性低木。樹高は成木で2メートルあまりになる。枝先が三つに分かれており、これが名称の由来となっている。 16世紀に中国から伝えられた。光沢がありしなやかで、破れにくいという特性を持つ。その特性から、紙幣などに活用されている。春先、黄色の花を枝先に咲かせるが、その可憐な姿から、庭木として愛好されることも多い。

楮|
こうぞ

楮は、クワ科の落葉低木。樹高は成木で3メートルあまりになる。栽培が容易で育成が早く毎年収穫ができる。結実した味は赤く甘みがある。国内では、高知県が栽培の過半数をしめているが、その他、茨城県など。和紙の原材料として最も使用される。繊維は長く強靭。その特性から、障子紙、表具用紙、美術用紙など、幅広い用途に使われている。別名、紙の木ともいう。

雁皮|
がんぴ

雁皮は、ジンチョウゲ科の落葉低木。樹高は成木で2メートルあまりになる。育成が遅く栽培が難しいため、痩せた山地などに自生したものを伐採して使用している。地域によっては絶滅危惧種の指定を受けているほど育成が危惧されている。繊維は三椏に似て細く短いため、独特の光沢がある和紙に漉き上がる。代表的な用途は、箔打ち紙であるが、古くは写経用紙、謄写版原紙など。